好評に続く「バトル市役所」。
皆様の声援あっての物語です。
本当にありがとうございます。

今回は、抜刀隊の姿を、ほんのちょっぴり見せちゃいます。

でわでわ、続きからどうぞ。
 納税課を出た社とプリン野郎は、市役所前のメイン通りを、マーケットからまっすぐ市役所へ向かっていた。街並みは、とにかく賑やかだ。
 プリン野郎は、当然タケルである。手にしているプリンは、社に買って貰ったモノだ。歩きながら、器用に一口一口を味わいながら食べている。隣を歩く社は、茫洋とした表情で、のんびりとタケルと並んで歩いている。そんな二人の横を通り過ぎる人々は、当然ながら、今の高山市の一般市民達だ。
 老若男女が入り乱れるメイン通りも、随分と明るい。時間はお昼時だが、この活気は、高山市だからこそ成せるものだ。

 …2050年に起こったクーデターから既に50年が経ち、それまでの街並みからは一変している。ビルも建ち並び、ちょっとした贅沢が許される町へと発展したのだ。砂漠にある唯一のオアシスらしく、緑も映えている。
 そして、来月にはクーデターから50周年を記念して、高山市独自に鎮魂祭を行う。
 先のクーデターでは、一般市民からも大量の犠牲者が出た。クーデターとは、国内部からの反乱のことであるが、大規模な殺戮行為ということは、戦争と何ら変わりがない。
 そこで、市長である織田からの提案で、鎮魂祭を行うのだ。
 当然、犠牲者の中には女子供も多数含まれていた。勿論、自分の家族を守るために、多くの男達も犠牲となった。
 無念の中で死んでいった者達に対して、追悼するのだ。「今の自分たちがあるのは、あなた方のおかげだ」と。

 もっとも基本的な「祖先崇拝」という考え方が、高山市の、いわゆる「宗教」であった。
 50代を過ぎている市民達は知っているのだ。
 いざという時には、神は何もしてくれない、と。

 そんな悟りにも似た思いで、生きているのだった。

 しかし、プリン野郎はそんな思いに駆られることはなかった。
 今は、とにかくプリンである。
 しかも、奢りである。
 据え膳食わぬはなんとやら、である。

 「お前、物凄く幸せそうに食べるのな」

 その言葉は、勿論、プリンを食べているタケルに向かっての、社のものだ。
 言葉をかけられても、タケルはプリンだけを見ながら、幸せそうに一口ずつ食べている。
 タケルに無視されても、毎度のことと分かり切っていたのか、社はまた黙ったままタケルと雑踏の中を歩いていた。

 不意に、社が足を止めた。勿論、タケルはそれに気付く筈もなく、プリンを食べながら歩いていく。社の目線は、前方斜め上。

 「タケル。今、何がある」

 タケルの目が、鋭くなった。

 「一犬(いっけん)と三猫(さんぴょう)」

 一瞬にしてプリンを食べ終え、容器をゴミ箱へ捨てる。更に、一瞬で中腰になり、両手を地面に向けた。
 社は、タケルの左手に出る筈の「それ」を、受け取る体勢を取る。斜め前方の空中に視線を固定したまま。

 タケルの両手に、信じられない現象が起きた。

 両の掌に、光。
 その光が、瞬間で刀へと転じたのだ。
 その刃には、それぞれ、鋭く牙をむいた犬と、しなやかな体つきの猫が彫られている。

 「じゃあ、猫をくれ」

 猫の彫られた刀を受け取った社は、その瞬間、跳んだ。

 「じゃ、僕も」

 犬の彫られた刀を握り直したタケルも、社の後を追う。

 二人の跳躍力は、人間のそれを超えていた。
 一瞬で、空中20メートル上空に居たのだ。

 社は、見据えていた場所に到達したとき、刀を真横に振った。
 タケルは、その丁度、真下を縦に振り下ろした。
 
 二人が振った刀の軌跡の交点から、僅かな金属音。

 着地する二人。
 いつの間にか、刀はもう握っていなかった。

 一瞬のことで、雑踏の人間達は何が起こったのか分かっていない。
 感じたのは、二人が一瞬目の前から消え、少し離れた場所に着地していたこと。
 しかし、不可解なことに遭遇すると、人はそれを忘れ去ろうとする。雑踏の中の誰も、二人の声をかける者は居なかった。
 何事もなかったように、歩いているのである。

 それが、高山市だ。

 着地した社とタケルは、自分たちが居た空中に目を移す。すると、キラキラ輝く金属片が落ちてくる。
 すっと差し出した社の手の平に、それは落ちてきた。見ると、単なる金属片ではない。金属片の裏側には、かなり高精度な部品が取り付けられ、それから配線が2本ほど飛び出ている。どう見ても、何かの機械の部品の一部だった。

 「気付いてたか、タケル」

 タケルは、にっこりと笑って。

 「プリン食べてるときは、駄目なんですよ」

 社は、無表情のまま。

 「ふーん。お前をやっつけたかったら、プリンを食べさせてりゃいいんだな」

 タケルは何のおくびもなく、笑顔のまま言った。

 「そうみたいですよ」

 先ほどの跳躍で乱れたのか、社の前髪が少し解れ、眼鏡にかかっている。それに気付いた社が、文句を垂れた。

 「髪型変えてまで斬ったのに、収穫無しか。ま、あんだけ小さきゃ、しょうがないか」

 いつの間にか、茫洋とした表情に戻っている。タケルも、ニコニコ笑ったままだ。
 社とタケルは、社の「行くか」という言葉を合図に、また歩き出した。不意に、社がタケルに訊く。

 「なぁ、どうして今は2本しか無かったの」

 先ほどの刀の話しをしているらしい。のんびりと訊いている割には、物凄い内容だ。タケルに、「何故、刀を2本しか所持していなかったのか」と訊いているのだ。
 Yシャツとスラックスのタケルは、いったい何処に刀を持っていたのか。しかも、2本も。
 しかし、社は、「2本しか」と言った。
 普段は、2本以上持っているのだろうか。

 何処に?
 
 タケルは、歩きながら、笑顔のまま応えた。

 「すいません、他のは、家で手入れをしている最中だったんで、持ってくるのを忘れたんですよ」

 「まぁ、相手は一個だったから良かったけどね」

 「社さんは、何で持ってなかったんですか」

 「俺はお前とは違うんだよ。手に持って歩くしか無いの。今は、机の下でひっそりとしてるよ」

 そうなんですか、とタケルが返したら、二人はもう会話をしなかった。そのまま、市役所までのんびりと歩いていった。
2007.02.27 /
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